きみ、ふわり。
ポツッ――と。
紗恵の右頬に雫が落ちた。
最初、汗かなと思ったけど、どうやらそれは俺の目から零れ落ちたみたいで。
鼻に違和感を感じて大きく息を吸うと、ズズッという湿っぽい音が鳴った。
俺に組み敷かれた紗恵の細い両腕が伸びてきて、その手に頬をふわりと優しく包まれた。
やり場のない痛みが込み上げて来て、耐え切れずに目を細めれば視界が滲んだ。
「先輩、泣かないでください。
笑って……」
そう、吐息混じりに囁いた紗恵もやっぱり泣いていて。
冗談じゃない、こんな時に笑える訳がない。
逆らって反発して、ついでに紗恵との別れも拒めたらどんなに良いだろう、と出来もしない事を考えたら、一層泣けた。