きみ、ふわり。


 ポツッ――と。
 紗恵の右頬に雫が落ちた。

 最初、汗かなと思ったけど、どうやらそれは俺の目から零れ落ちたみたいで。

 鼻に違和感を感じて大きく息を吸うと、ズズッという湿っぽい音が鳴った。



 俺に組み敷かれた紗恵の細い両腕が伸びてきて、その手に頬をふわりと優しく包まれた。

 やり場のない痛みが込み上げて来て、耐え切れずに目を細めれば視界が滲んだ。


「先輩、泣かないでください。
 笑って……」

 そう、吐息混じりに囁いた紗恵もやっぱり泣いていて。


 冗談じゃない、こんな時に笑える訳がない。

 逆らって反発して、ついでに紗恵との別れも拒めたらどんなに良いだろう、と出来もしない事を考えたら、一層泣けた。


< 127 / 191 >

この作品をシェア

pagetop