きみ、ふわり。


 ああ、何なの? 何なんですか、これは?


 冗談はやめて欲しい。

 紗恵は遠くへ引っ越して。
 遠距離が嫌だと言われて俺はふられて。

 今俺は失恋による傷心中で。
 傷はまだ癒えていない訳で……



 冗談で――

 あるはずがないか。



 色を失った視界の中、栗重は眉間に皺を寄せ、それでも一生懸命微笑んで、それでも両の目からポロン、ポロンと小さな玉を落として。


「瀬那くん、読んで」

「嫌だ」

 ノートを閉じて栗重に突き返す。

 例えそれが真実だとしても、現実だとしても。
 今はそれを信じたくない、受け入れたくない。


 こんなにも残酷な現実……

 知らないままでいたかった。


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