きみ、ふわり。
紗恵は俺の世界から、ふわり、と消え、
そうしてまた、ふわり、と舞い戻る。
気まぐれに。自由自在に。
もう紗恵を縛り付けるものは何もないんだなぁ、と。
漠然とそんなことを思った。
栗重の話では、紗恵は脳に腫瘍があったのだそうだ。
泣きたいだけ泣いたら随分と気持ちが落ち着いた。
俺は自ら栗重の腕の中から、そろりと抜け出した。
「紗恵、苦しんだ?」
聞きたくなかったけど、聞かずにはいられなかった。
「ううん。紗恵ちゃんの両親は、紗恵ちゃんが苦しまない最期を選んだ。
お別れは少し早くなっちゃうけど」
栗重は寂しげな苦笑を浮かべてそう言った。