きみ、ふわり。


 振り返ればそこに、栗重みなみが立っていた。


 一瞬、誰だかわからなかった。

 まず、髪型が違う。
 少し明るめの顎下ぐらいの短い髪が緩いウエーブを描いていて。

 そしてさらに、トレードマークだったはずの茶色いフレームのメガネも掛けていなかった。


 けど、綺麗に柔らかく笑うその顔は、あの頃の栗重そのままだった。


 確かに。
 メガネを取ると可愛い。
 悠斗が正解、今頃気付いても仕方ないけど、とにかくお前、正解。


「当前です。
 全ての女性患者が俺の恋人ですから」

 ふざけて返せば、「まだそんなこと言ってんの?」と呆れた顔をする。

 けれどすぐキラリと笑い、

「久しぶり」

 と言った。


< 182 / 191 >

この作品をシェア

pagetop