きみ、ふわり。




 紗恵……




 忘れない、忘れる訳がない。
 甘くて、優しくて、愛しくて、切なくて、残酷なほど幸せな記憶。

 けど俺は。




 寂しげに俯く栗重を見て、胸の奥にキュッと絞られるような感覚。
 と同時にそこから熱いものが込み上げてきて。


 この気持ちは多分、俺が忘れていたものだ。
 もしかしたら、無意識的に封印してきたものかも。

 それが栗重に再開したことによって、鮮明に蘇った。


 もう一度――

 誰かのことを、
 ジリジリと焦がれるほど愛したい。


< 188 / 191 >

この作品をシェア

pagetop