きみ、ふわり。


「え?」

 っと。
 無意識に間抜けな声が漏れた。


 けれど紗恵は、

「私が処女じゃなかったら、抱いてくれますか?」

 もう一度同じ言葉を、頑なな強い意志をのせて俺に向かって放った。



 どうして……
 どうして、紗恵がそんなにまでして俺に抱かれたいのか、さっぱりわからない。


『鏑木先輩、カッコいいからです』


 たったそれだけで?


 どうして? 何故?
 疑問符ばかりが頭の中を渦巻く。


 ゆっくりと起き上がりながら、紗恵の身体も抱き起した。
 濡れた頬が余りにも悲痛に映り、両手でその頬を包み込むと、親指でそっと撫でた。


< 29 / 191 >

この作品をシェア

pagetop