きみ、ふわり。


 下唇をキュッと噛みしめて、泣くまいと頑張っている紗恵。
 けれど、彼女の涙はそれに逆らって、次から次へとこぼれ落ちてくる。

 柔らかそうなピンクのそれに、歯型が付いてしまわないかと冷や冷やする。
 ふっくらとして艶々したそれに、もう一度吸い付きたい衝動にかられる。


 それより何より、胸が締め付けらているかのように苦しい。



「んっと……」

 一旦口を開いたが、巧く繋げられずに一度コクッと喉奥を鳴らした。

 紗恵の濡れた瞳が微かに揺れながら、俺の言葉の続きを待っている。


「俺は良くわかんねぇんだけど。
 女の子の初めてって、人生の一大イベントじゃん?
 だから、やっぱ俺なんかじゃなくて、ちゃんとした相手とした方がいいと思う」

 そんなことを言いつつも、俺の両手は彼女の頬を包んだままだ。


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