きみ、ふわり。


「相手は……
 誰でも良かった訳じゃないでしょ?」

 丁寧に紡ぎ出した言葉は、自分でも驚くほど柔らかく響いた。


 コクンと大きく頷いて、彼女はまた唇を噛みしめる。
 痛々しくて見ていられない。

 ああ違う。
 愛しいそれを痛めつけないで、と思う。



「癖なの?」

 彼女の顔の輪郭を包み込むように両手で触れて、親指でそっと涙の跡を撫でた。

 ポカンとして俺を見上げる彼女に、

「噛むな、唇」

 言いながら顔を近付けて覗き込む。
 唇に歯型が付いていないのを確認してホッとした。


「それ、俺の」

 根拠も何もないガキみたいな独占欲剥き出しの言葉を、恥ずかしげもなくいけしゃあしゃあと吐いた。
 そうして、呆然として半開きになっている唇を俺のそれでそっと塞いだ。


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