きみ、ふわり。
今度は巧くいった。
紗恵が唇を緩めている隙をついたのが功を奏した。
キスごときで一喜一憂している俺って何? とか、そういう自答不可能な自問は無駄以外の何物でもないのでやめておく。
すっかり調子づいて、熱く滾る欲望を微かな隙間から割り入れれば、それすらも紗恵はあっさり受け入れた。
けど、あくまで控え目に。
上唇をなぞるだけに留める。
ゆっくりでいい。焦りもない。
じんわり沁み込んで、たっぷりと時間をかけて徐々に溶けていくようなこの感覚が堪らなく心地いい。
未練たらしく最後に軽く食んでから離れ、閉じていた瞼を上げれば、目の前には心ここに非ずなぼんやり顔で俺を見つめ返す紗恵がいた。
胸の奥にじんと優しい温かみがさし、気持ちが和む。
俺の中に芽吹いたこの温もりを、それをくれた紗恵にも分けてあげたくて、そっと包み込むように両腕を背中へ回して抱き締めた。