きみ、ふわり。


 玄関のドアを開けるなり、その音に反応してリビングから大声が飛んで来た。

「せなっち、丁度良かったぁ~。
 琉佳(ルカ)迎えに行ってちょ」

「悪ぃ、今日無理だわ」

 即、お断り。
 紗恵を連れていて良かったと心底ホッとする。


 パタパタと廊下をこちらに駆けてくる足音と共に、「えー」という甘ったるい不満の声が聞こえる。
 声の主は俺たちの前に姿を現し、ピタと立ち止まって大袈裟なほど目を見張る。


 クルクル巻いた明るい茶髪は胸が隠れるほどの長さ。
 田舎のヤンキーが好んで着そうな、派手なジャージ上下を恥ずかしげもなく身に纏った女は、紗恵をチラと盗み見て「お客さん?」と何故か声を潜めて問う。


「うん。ただいマンゴー」

「お帰りマンゴー」

 この場合、『おかえリンゴー』が正解だと何度教えても覚えないので、最近はスルーしている。


< 65 / 191 >

この作品をシェア

pagetop