きみ、ふわり。
自分の部屋には寄らず、父親の寝室へ直行した。
ここのキングサイズのダブルベッドで一度やってみたいと常々思っていた。
ようやくそれが叶うと思っただけで、ガキみたいに気持ちが弾んだ。
「ここが……鏑木先輩の部屋ですか?」
天然なのか何なのか。
紗恵が部屋に入るなり不思議そうに尋ねてきた。
「んな訳ねーだろ」
と失笑が漏れた。
紗恵の顔がほんの少し曇ったのを見て、焦燥と動揺が同時に押し寄せる。
慌てて弁解がましく、
「ここは、父親とあの女の部屋。
このベッドいいだろ?」
などと言いながらベッド端にドスンと勢いよく腰を落とす。
子どもが新品のオモチャを自慢するような言い草だ、格好悪過ぎるだろ、まじで。