きみ、ふわり。

「拗ねた先輩、可愛いです」

　ようやく身を起こして俺の面前から消えたと思えば、そんな屈辱的な言葉を吐いて紗恵は愉しげに笑い出した。


　どうしてだ。

　俺が可愛い訳がない。
　可愛いなんて形容詞が俺に付くことなど、ここ何年全くなかった、断言できる。



　たじたじって、こういう状態を言うのかもしれない。
　どう返せばいいのかわからず、黙ったまま恐る恐る紗恵に視線をやった。


　クツクツと喉を鳴らして笑っている紗恵は、まるで人懐っこい子犬みたいな可愛らしさがあった。
　膝の上にのせて抱いて、撫でて頬擦りして、愛でて愛でて愛で倒したいような。


　性欲とは別の何か。
　純粋にスキンシップだけを望んでいる、ピュアな……俺？

　俺じゃない他の誰かが俺の中に居るような不思議な感覚。