みつめていたい【短編】
いつもと同じように彼を起こすと、私は急いで鞄の中から手紙を取り出し、まだ眠そうな彼の鼻先につき出した。


「こここ…これ、読んで!!」

「……俺に?」

目をぱちぱちさせる彼に、私は黙って頷いた。

口から心臓が飛び出しそうだった。


私は深く息を吸い込み、彼の一連の動作を見守った。


「…ハイ」

と、彼は真面目な顔をして短く答えると、震える私の手からそっと手紙を受け取り、丁寧に鞄の中にしまった。


彼はゆっくり長椅子から立ち上がると、いつもと同じように私の頭の上に手を置き、

「ありがとう」

と言って、電車から降りて行った。
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