もう一度だけでいい。
転んだ拍子にソファーへと倒れたやさおと私の唇はきれいに重なった。
私は自分が気づかないうちに顔が真っ赤になっていた。
「ご、ごめん。花ヶ嶺さん!!」
やさおが何度も謝るが私に声は届いていない。
ただ唇を抑えて一点を見つめたまま動かなかった。
我に返った私は急いで部屋を飛び出し教室へと走った。
「茜?」
全速力で教室へと駆け込み走り去る私を見て不思議そうに見つめる楓矢の声も無視してまだ、まだ。と走る。
やっと止まった私は、ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返しもう一度唇に手を当てた。
きっと、このドキドキは走ったからなんだ。
そう自分に言い聞かせとぼとぼと家路を歩いた。