スピカ
 夏の空って全然暗く感じない。
それはやっぱり視覚的なものじゃなくて、体感温度に関係するのかな、とか思ってしまう。
だって人間は、明るい=熱いって無意識に盲信してるでしょ。

だから、夏って明るく見えるんじゃないのかな。

……なんて、あたしの馬鹿な頭じゃ、いくら考えたって答えは見つかる訳がないか。馬鹿馬鹿しい。


はぁ、と小さく溜め息を吐く。
晴れているくせに、纏わり付く湿気が欝陶しい。

首元に張り付いた髪を後ろへ流す。でも、すっとしたのもほんの一瞬で。
イライラしながら再びサンダルを鳴らし始める事にした。


……ん?


後ろで足音が聞こえる。あたしのものじゃなくて、スニーカーのような草履のような音。
いくら明るいと言えども、時間は深夜。人通りの少ない住宅街を歩くのは、やっぱり不気味だ。
後ろに足音なんて、冗談じゃない。

わざとらしく見えないように、足を止めて鞄から携帯を取り出してみる。
すると、倣ってその足音もぴたりと止む訳で。



……マジかよ。

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