スピカ
 やばい。すっかり忘れていた。
約束をすっぽかして帰るなんて、あたし、最低だ。

1つ上手くいかない事があれば、どうして全部が上手くいかないのだろう。自分のせいとは言え、こうも続かなくたっていいのに。

躊躇いはしたものの、電話に出ない訳にはいかない。深く目を瞑り、携帯を耳に当てた。

「……はい」

「も、もしもし?」

「洋君……」

「雅ちゃん? やっと出てくれたぁ」

笑い混ざりの溜め息が耳に届く。何だか、複雑。

「えーっと、あの……」

「つーかさ」

言葉が詰まる。洋君の口調が少しきつくなった。

「昨日、どこにいたの? 俺、散々探したんだけど」

結構怒ってるな、これは。そりゃあ、怒るのも当たり前か。

「……ごめん。昨日気分悪くなって途中で帰ったんだ」

「帰ったんなら言えよ! 馬鹿!」

ば、馬鹿って……。カップルの会話かよ。しかも、あたしが彼氏役。

「あの、……ごめん」

どこからか変な汗が流れてくる。まさか、怒鳴られるとは思っていなかった。
てっきり洋君は静かに怒るタイプの人間だと踏んでいたから、罪悪感よりも驚きの方が勝ってしまう。
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