スピカ
「でも……悠成の気持ちも分かるけどさ、俺、そういうので雅ちゃんと気まずくなったりするの、嫌なんだ」

「……うん」

「あの2人は関係なしに、俺達は俺達だって考えたいんだけど」

いつもの優しい声が、真っ直ぐに届いてくる。どうしてこうも、この人は真っ直ぐな言葉をくれるのだろう。不思議。

「そう思っていいかな?」

「いいよ」

そんな事、心配しなくたっていいのに。どうしてそこまで、あたしを必要としてくれるのだろう。
ずっと、好きでいてくれるのかな。あたしの事を。この人は。

「良かった。……ありがとう」

「ううん」

ありがとう、だなんて大袈裟な。洋君ならきっと、もっと大切にしてくれる女の子がいるだろうに。
あたしは、洋君を好きかどうかさえ分からない。好きになりたい。

だけど、もうあんなの嫌だ。良平の時みたいに、好きかどうかも分からないまま付き合って、別れて、後悔して。

「あ、やべ。今、悠成来たみたいだから行ってくる!」

「え? あっ、うん。……じゃ」

「じゃあ、また」

返事を待つ間もなく、電話が切れる。
この瞬間が嫌い。ふと現実に戻るような、そんな感じ。

そして、あたしはまた夢へ逃げる。


無心でそっとシャーペンを手に取った。
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