スピカ
 ……おかしい。反応がない。

少し強めに叩いてみるも、

「ひーさーぎーさーんっ!」

やっぱり反応はない。
実際は何か返事をしているのかもしれないけど、より大きくなった音楽のせいで、聞こえない。
楸さんがいるのは分かっているのに、こうも無反応だと不審過ぎる。

とにかく、この騒音で聞こえないのなら勝手に入るまでだ。楸さんの部屋に入るのはかなり気が引けるけど、ここで何分も待つよりも入って直接言ってやった方が早い。

痺れを切らすまでもなく、ノブに手を掛ける。予想通り、鍵は閉められていないみたいで。手を引くと、安易にドアが開いた。


と、同時に、凄い音量の音楽と、2つの混ざった匂いが5感を刺激する。あたしにとっては、もはや公害レベル。

音楽はともかく、この匂いは楸さんがここを出て行った後もしばらく残ると思う。
もしかしたら、染み付いて一生取れないかもしれない。そうしたら、あたしは一生この部屋を嫌いになりそうだ。

電気は暗がりだけど、ぼんやりとついている。奥から漏れてくるのは水色の不気味な光。何の光だろう。
何か、怪しい儀式でも行っているのだろうか。楸さんにそんな趣味があったとは……かなり意外だ。

恐る恐るサンダルを脱ぎ、部屋に足を踏み入れる。思っていたよりかはマシだけど、足元には雑誌や服のような物が散らかっていて、綺麗とは言えそうもない。

大音量の洋楽に混じり、僅かに人のいる気配が感じられる。何だか泥棒になった気分だ。

部屋の脇にある突起を手探りで見つけ、あたしは照明のスイッチを切り替えた。
< 120 / 232 >

この作品をシェア

pagetop