スピカ
 明るくなった部屋に、楸さんはいた。だけど、まさに入ってきちゃマズイ状況だったらしい。かなり。
大きく見開いた眼があたしを捉え、怪物でも見たかのように固まってしまった。まるで、石にでもなったみたいに。

さすがのあたしも、気まずいったらありゃしない。

だって、部屋の中にいた楸さんはベッドの上に君臨していて、その下には見知らぬ女がほぼ裸体で服を乱している。
こんなの、少し埒た小学生でも、一目見ただけで何をしているのか分かる。

2人はまさに合体中だったのだ。


「え? みっ、雅ちゃん……!」

目があちこちへ泳ぐ楸さん。
そりゃあそうだ。邪魔をされて、ムードもぶち壊しだろう。あたしのせいで。

「ちょっと、やだ……」

あたしを見て、あからさまに嫌そうな顔をする女。こっちだって嫌だっつーの。
他人の事を言える立場じゃないけれど、ケバイ女だ。

部屋を照らしていた青い光は、どうやらオーディオのものだったらしい。不気味に部屋を色付けては、凄い音量で洋楽が流れている。

「どうも、邪魔してすみません。集金頼まれたんだけど、また出直します」

「あ、いや、えっと……」

踵を返す前に、2人を横切り、あたしは部屋の奥へ進出する。それから、光と音を生み出していた機械の電源を切ってやった。

「うるさいんで、これは切りますね」

「あの、」

「んじゃ、ごゆっくり」

楸さんが何か言おうとしていたのを遮り、皮肉を込めてそう言ってやった。
2人に目をやる事なく、出口へ向かう。

「雅ちゃ……」

何だよ。これ以上、あたしをややこしい事に巻き込まないでくれ。合体したけりゃ、したらいいじゃないか。とばっちりを喰らうのは、御免だ。
わざと電気を消し、あたしは香水の匂いのする、空気の汚い部屋を出た。

寒空が12月の、冬の訪れを感じさせる。澄んだ空気が鼻を通って、胸の奥まで侵食してくる。
止んだ騒音が逆に不気味で、あたしはその扉を背にした。
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