スピカ
 向かい合うあたし達の間に浮かぶのは、ほんのり白くなった吐息と少しの沈黙。
楸さんの瞳があまりに強くて、思わず打たれるのかと思った。

「あの、だから……っ、」

視線がぐるぐると泳ぎ出す。


って、あれ……?
怒って、ない……?


「別に、あの子は彼女とかじゃないから」

おいおい。さりげなく最低な事を吐かしているじゃないの。それに、どうしてあたしにそれを言うんだ?
嫌悪感と焦燥感が入り乱れる。

「友達、とかでもなくて、たまたま知り会ったっていうか……、てか、俺、彼女とか作んないしっ……」

「な、何言ってるんですか?」

「だっ、だからそんなに怒んないでよ。俺は、」

「は? あたし別に怒ってないんだけど」

「え?」

「え?」

「……え?」

鏡のように繰り返す楸さんの顔が、お世辞でもかっこいいと言えないほど間抜けで、思わず笑いが零れてしまう。

「そん、……で、でもさっき走って逃げてたじゃん」

「それは、楸さんが追っ掛けて来たからでしょ」

楸さんの目がどんどん丸みを帯びていく。電柱の光か何かを反射し、黒と白の二重に重なる層が綺麗。
言葉を探しているのか、ぱくぱくと小さく動く唇からは、いつもの灰色とは違う白い息が零れていく。
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