スピカ
「うぅ、寒っ」
突風に、落ち葉が舞い上がる。無力に舞い散る赤や茶色の葉が、白い冬空には鮮やかで、色を失くした季節を彩る。
乱れる髪を整えて、マフラーに顔を沈めると、籠った吐息が冷えた頬に熱を与えた。
女子高生というのも大変だ。
こんな冷たい風の吹く日にも、雪の降る凍えそうな日にも、足を晒さなきゃならないなんて。登下校の度に、足が棒のようになってしまう。
ガチガチの足を引きずりながらも、ようやく家の門戸に辿り着き、凍える手で扉を引く。
もう、耳が千切れてしまいそうだ。あるのかないのかさえ、分からない。それでも、リビングからの話し声が聞こえてくるって事は、どうやら耳は失くなっていないらしい。
「ただいまー」
壁があるのとないのは大違いみたいで、エアコンをつけていないにも関わらず、家の中全体が心なしか暖かい。
「お帰りー」
「あら、雅が夕方に帰って来るなんて珍しいわね。お帰り」
「失礼な。あたしも毎日遊んでる訳じゃないっつーの」
マフラーを外していた手が一時停止する。当たり前のような顔で、リビングに馴染んでいる赤の他人がいるからだ。
「って、何で楸さんが家にいる訳?
しかも、勝手にあたしのマグカップ使ってんじゃねぇよ」
「いやぁ、大学行きそびれちゃってさ。暇だったから遊びに来ちゃった」
来ちゃった、じゃねぇよ。毎回毎回、家はたまり場じゃないっつーの。どうして、コイツはこうも、うちの家に踏み込んで来るんだ?
行動がいまいち読めない。多分、頭がおかしいんだ。
「ああ、気分が悪い。お母さん本気にするんだから、口説いてないでさっさと帰って下さい」
じゃ、と付け足して、入りかけたリビングから再び出る。
昨日あんな事があったっていうのに、よくも家に顔出せるな。気まずいだとか、思わないのだろうか。
目に浮かび上がったままの、あのヘラヘラ顔にイライラしながら、ほんの少しだけ感覚の戻った足を階段に掛けた。