スピカ
「楸さんこそ、今日は女連れ込まないんですか?」

厭味たっぷりにそう聞いてやった。
少しくらい、へこめばいい。女を取っ替え引っ替えして、こんな奴、女とモテない男の敵だ。

「……」

ところが、答えが返ってこない。
さすがにへこんだのかな、と横目で様子を窺ってみると、楸さんは遠くを見つめたまま煙草で口を塞いでいた。沈黙の理由を煙草のせいにしているみたいで、狡い。

赤い火が強くなる訳でもなく、ほんの少しずつ時を刻んでいく。

遠くに向けられていた視線が、ふとこちらへ泳ぐ。案の定、その横顔を見ていたのがバレてしまい、あたしは慌てて目を逸らした。
沈黙のせいか、なぜか気まずい。


と、ぐいと凄い力で肩を引っ張られた。


「え?」

抱き寄せられた肩が、楸さんの胸元にぎゅっと押し当てられる。酒臭い匂いが、あたしにも伝染りそう。

「いるじゃーん、ここに」

「は……? 何言ってんの?」

「雅ちゃん、今夜は優しくしてね」

なんてふざけた台詞を吐くと、楸さんは可愛ぶってウインクをした。



……待てーーー!

「黙れこのっ、外道! 近寄るな!」

脇腹を思いきり押すも、びくともしない。
こんなのでも、さすが男という性別に属しているだけある。調子に乗って、体重まで掛けてくる始末。



「触んじゃねぇぇーーっ!」


と、相手の脇腹に1発。


「いぃってぇーっ! ジョ、ジョブ? 女子高生がジョブはないんじゃねぇの!」

「うっさい! 触るな、近寄るなぁっ!」

「ちょっ、……えぇー?」

それから、駆け抜ける事風の如し。
元陸上部をナメてもらっちゃ困る。
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