スピカ
 耳に触れていた手が、なぞるようにして頬へ回る。温かいどころか、熱さえ感じてしまう。
伏せていた目を正面へやると、洋君の目が少し潤んで見えた。
どこか熱っぽくて、色っぽい。

「雅ちゃん……」

響く声と同時に、2人の距離が近付いていく。
どこかスローモーションに感じてしまうのはきっとあたしだけで、冷えきった心も、熱を帯びたように跳び起きる。

キス、しちゃうのか。

ぎゅっと掴まれた肩。
睫毛の間が狭まっていく。長い洋君の睫毛が影を落とすのと共に、鼻が少しだけぶつかり合う。


薄らいでく視界の中、あたしは、嫌なものを見てしまった。


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