スピカ
「哲巳、ちょっと待ってて。部屋に携帯忘れた」
「おう。早くしろよ」
階段を駆け上がる音が聞こえる。
2人残されたこの空間は、息が詰まりそうなくらい静かで、目の行き場すら定まらない。
飲みかけのココアが色を薄めていく。
くるくる、くるくると。
「……知ってたんですか」
「うん、まぁ。……雅ちゃんの文化祭の時にね」
ああ、あの時。
あの時に聞いたのか。……楸さんは。
結局、知らなかったのはあたしだけだったんだ。
何だよ、ソレ。大分前の話じゃないか。
どうして、もっと早く言ってくれなかったのだろう。蛍姉はいつだって自分勝手だ。
「雅ちゃん? どこ行くの?」
「……、別に」
リビングを出ると、ちょうど蛍姉が階段から下りてくる所だった。
視線が交ざってしまう前に、目を逸らす。ただの条件反射だ。
それでもやっぱり目を合わせるのは嫌で、身体は自然と逆方向の玄関へ向かってしまっていた。
玄関にいるてっちゃんはあたしの姿を見つけると、「おっす」と陽気な笑顔を向けてくれる。いつもの事なのに、返事を返すのが、どうしてこんなにぎこちなくなってしまうのだろう。
適当にサンダルを履き、早足でてっちゃんを横切る。不思議そうな眼を向けていたのが、何となく分かった。
強がっていたくて、それでも身体が言う事を聞かなくて。振り向く間もなく、玄関の戸を後ろ手にぴしゃりと閉じた。
「おう。早くしろよ」
階段を駆け上がる音が聞こえる。
2人残されたこの空間は、息が詰まりそうなくらい静かで、目の行き場すら定まらない。
飲みかけのココアが色を薄めていく。
くるくる、くるくると。
「……知ってたんですか」
「うん、まぁ。……雅ちゃんの文化祭の時にね」
ああ、あの時。
あの時に聞いたのか。……楸さんは。
結局、知らなかったのはあたしだけだったんだ。
何だよ、ソレ。大分前の話じゃないか。
どうして、もっと早く言ってくれなかったのだろう。蛍姉はいつだって自分勝手だ。
「雅ちゃん? どこ行くの?」
「……、別に」
リビングを出ると、ちょうど蛍姉が階段から下りてくる所だった。
視線が交ざってしまう前に、目を逸らす。ただの条件反射だ。
それでもやっぱり目を合わせるのは嫌で、身体は自然と逆方向の玄関へ向かってしまっていた。
玄関にいるてっちゃんはあたしの姿を見つけると、「おっす」と陽気な笑顔を向けてくれる。いつもの事なのに、返事を返すのが、どうしてこんなにぎこちなくなってしまうのだろう。
適当にサンダルを履き、早足でてっちゃんを横切る。不思議そうな眼を向けていたのが、何となく分かった。
強がっていたくて、それでも身体が言う事を聞かなくて。振り向く間もなく、玄関の戸を後ろ手にぴしゃりと閉じた。