スピカ
 夏休みって、長いようで短い。
暑過ぎて勉強が進まないから学校が休みになるはずなのに、どうして遊びに行けると言うのか。
無理無理。怠いっつーの。小学生じゃないんだから、そんなにはしゃげません。


「オラッ、くたばれー!」

「ぎゃあああー!」

なんて言いながらも、燃える時は燃える訳で。あたしって案外、小学生に近いのかもしれない。

「うわぁ! もう、雅ちゃん、強過ぎだって!」

横で色黒の額が汗を掻いている。事が終わって初めて、そんなに燃えていたのか、と気が付いた。

「てっちゃん、まだまだ修業が足らぬな」

ふはは、とわざとらしい笑いを零してやった。てっちゃんはまだ「くそぅ」と悶えている。

「もう1回! あと1回だけ!」

てっちゃんがそう言うのを聞いて、横にいた蛍姉が眉を顰めた。

「哲巳、いい大人がゲームなんかにムキになんないでよ。あたしが恥ずかしいわ」

「蛍に格ゲーの面白さが分かるもんか!  勝つまでやってやる!」

てっちゃんは見向きもせずにボタンを進めていく。
大きな溜め息を吐くと、蛍姉は「一生やってろ」と吐き捨て、キッチンの方へ去っていってしまった。

蛍姉に気を取られている間に、第16ラウンドが始まる。

「あっ、ちょっ……!
 みやっ、雅ちゃん! 待っ」

「誰が待つかぁー!」

「ぎゃあー!」

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