スピカ
「あら、楸君。もう帰るの?」
「はい、お邪魔しました。朝ご飯までご馳走になっちゃって。美味しかったです」
お母さんは表情をころりと変え、尖っていた声色も猫撫で声へ。大人って、こんなもの。それが今は、無性に苛立つ。
2人を置いてその場を去ろうとすると、話をしていたはずのお母さんが、しつこく手首を掴んできた。
「雅、風邪引くでしょ! 早く中に入りなさい!」
「ああもう、っ」
うるさい!と、腕を振り解こうとしたけれども、その腕を更に上から掴んだのは強い手で。振りかざした腕は、そのまま空中で動かなくなってしまった。
「大丈夫ですよ。雅ちゃん、俺んちにCD取りに来るだけなんで」
「なっ」
何で、……
お母さんは慌てて掴んでいた手を放し、あたし達を交互に見比べた。
「あ、あらやだ。そうだったの? あたしったら……はっ、恥ずかしいわね!
あはは……」
誤魔化しているつもりで笑っているらしいけど、どこか不自然な笑いに、違和感を覚える。
「じゃあまた、満希さん。雅ちゃんお借りしますね」
「ああっ。どうぞどうぞ! 行ってらっしゃい」
「……」
強引に、肩を押される。
どうして、楸さんなんかに助けてもらわなくちゃならないんだ。
渋々ながらも、その場から逃げられるのなら、と押される通りに足を進めた。
「はい、お邪魔しました。朝ご飯までご馳走になっちゃって。美味しかったです」
お母さんは表情をころりと変え、尖っていた声色も猫撫で声へ。大人って、こんなもの。それが今は、無性に苛立つ。
2人を置いてその場を去ろうとすると、話をしていたはずのお母さんが、しつこく手首を掴んできた。
「雅、風邪引くでしょ! 早く中に入りなさい!」
「ああもう、っ」
うるさい!と、腕を振り解こうとしたけれども、その腕を更に上から掴んだのは強い手で。振りかざした腕は、そのまま空中で動かなくなってしまった。
「大丈夫ですよ。雅ちゃん、俺んちにCD取りに来るだけなんで」
「なっ」
何で、……
お母さんは慌てて掴んでいた手を放し、あたし達を交互に見比べた。
「あ、あらやだ。そうだったの? あたしったら……はっ、恥ずかしいわね!
あはは……」
誤魔化しているつもりで笑っているらしいけど、どこか不自然な笑いに、違和感を覚える。
「じゃあまた、満希さん。雅ちゃんお借りしますね」
「ああっ。どうぞどうぞ! 行ってらっしゃい」
「……」
強引に、肩を押される。
どうして、楸さんなんかに助けてもらわなくちゃならないんだ。
渋々ながらも、その場から逃げられるのなら、と押される通りに足を進めた。