スピカ
 踞った体に顔を沈める。視界が真っ暗になり、泣き出しそうになってしまった。

横にある微かな温もりと、包み込むきつい香り。耳をつんざくような静けさ。

この部屋、嫌い。

「こんな部屋で、嫌じゃないの?」

「どんな部屋?」と静かな口調で楸さんが聞き返すと、コトンと硬い音がした。

「……こんな、寂しい部屋」

苦しくて、人工的で、寂しい部屋。
怖いくらいに。孤独な空間。

息が詰まってしまいそう。

「酷いなぁ。俺、ここに住んでるのに」

知ってるよ。そんな事。

楸さんは、ずっとこんな部屋で過ごしてきたんだ。3年間も。
いや、実家でもきっと、楸さんの部屋はこんな感じなのだと思う。
人が住んでいる感じがあまりしない。
温かさのない、冷たい空間。
こんな所で……


ああ、そうか。
だから、女を連れ込むんだ。

寂しいから。怖いから。孤独だから。

楸さんは独りの寂しさを知っているんだ、きっと。


横目でそっと楸さんの様子を窺ってみる。すると、待っていたかのように目が合ってしまった。
黒い、濁った瞳。寂しい眼。

「寂しいの?」

低い声が沈黙を破る。
寂しいのはそっちでしょう。こうやって、1度目が合えば、逃げる事を赦さない。
楸さんはいつだってそうだ。
だから、嫌なんだ。

「……蛍姉がいなくなったら」

嘘が吐けなくなってしまう。

「あたし、独りになる……」

怖いんだ、あたしは。蛍姉がいなくなるのが、独りになるのが怖い。怖くて恐くて、仕方がない。


「もう、やだぁ……」

目を塞ぐ。涙が溢れそうになったから。強引に、せき止めるようにぎゅっと目を瞑った。
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