スピカ
 ずっと、怖かった。梢姉がいなくなった時から、ずっと。いつか、蛍姉までいなくなってしまうんじゃないかって。

あたしには、2人が大事だった。だって、血の繋がった姉妹だから。いつまで経っても、いなくなったりしないものだと思っていたんだ。

本当の愛情をくれるのは家族だけだから。

それなのに。
するすると手から滑り落ちていく。
皆、皆。全部。


髪を撫でる手が、優しい。切なくなるほどに。
その手が悪いんだ。あたしが悪いんじゃない。

楸さんはいつだって、狡い。その手に縋り付くように、楸さんを求める。求めざるをえなくなってしまうんだ。

「皆、いなくなる……」

「……雅ちゃん」

しがみつく。必死に。泣いているのがバレてしまわないように、額を押し付けて、荒れる呼吸を隠して。
髪に絡んだ手が、梳かすようにそっと頭を撫でる。
震える体に身を寄せて、冷たい身体に熱を吹き込んでいく。

「大丈夫、ここにいるよ」

唇の動きが皮膚に伝わってくる。
温かい吐息と、苦い香り。
見え透いた虚言。
優しくて硬い腕。

「俺は、ずっといるから」

抱き締める時の感触。
頬擦りの角度。
泣きそうな、声。

「だから、泣かないで……」


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