スピカ
「わぁ、楽しそう」

突然の声にぎょっとする。
背後に振り返ると、見たくない人物ベスト10に入る男がいるではないか。

「うっわ、楸さん……」

顔引き攣ってるよ、とてっちゃんが横で笑う。

「てか、何で勝手に人の家に入って来てんだよ!」

「勝手に、じゃないよ。ちゃんと満希さんに入れてもらったから」

「あぁ、もう、うざい。お父さん、何か言ってよ!」

コントーラーをセットするのに必死のお父さんは、特に興味はない様子。

「あ、楸君もやる?」

「やりますぅ」

「誘うなーっ!」

イライラの原因だ、この2人は。あたしの言う事なんて聞きやしない。

楸さんはてっちゃんの横に腰を下ろすと、無邪気にニタァと笑った。

「いやぁ、藤代家から楽しそうな叫び声が聞こえてきたからさ。ついつい遊びに来ちゃった」

「来ちゃった、じゃないよ。マジ迷惑。ってか、出てって下さい」

「まぁ、いいじゃないか。あんまりカリカリしたらハゲるよ? パパの頭見てみなさい」

「黙れクソジジイ! 全部てめぇのせいだろうが!」

きゃー、と小さく抱き合うお父さんと楸さん。最悪なイライラコンビ。あたしの敵、宿敵だ。


「雅ちゃんの乱暴者! 俺、家賃払いに来ただけなのにぃっ」

楸さんが口を尖らせてぶすぶすと呟く。そのくせ、目は既に画面へ向けられていて抜目ない。

「は? 家賃?
 あたしが集金に行っても、いつも払わないくせに」

「昨日給料日だったの! それに雅ちゃんのは集金とは呼ばん。取り立てと呼ぶ」

そう言うと同時に、画面に“READY”の文字が表示される。

「マジ殺してやる」

“GO”と共にあたしのストレス発散劇は、鮮やかに開幕した。
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