スピカ
「俺も、そのうちの1人だろ?」

声が震えていた。歪んだ眉と泣きそうな口元が、胸を締め付ける。

「タツヤみたいに、どうでもいい男のうちの、1人なんだろ?」

「な、何言って」

「ヤらせろよ」

「は、はぁ?」

あ、と思う前にがしりと肩を掴まれてしまい、洋君から逃げる手を奪われた。近付いてくる顔は真剣で、それゆえに、恐怖すら覚える。

「ちょっ、洋君! やめてよっ」

到底、冗談なんかじゃない。そんな事は、百も承知だ。
それでも、洋君が嫌がるあたしを無理矢理襲うなんて、信じられなかった。信じたくなかった。冗談であってほしかった。

「やめろってば……っ!」

気づけば、抗っていた。ほんの数センチの所で、洋君の唇がぴたりと止まる。

乱されたマフラーの、隙間から吹き込む風が冷たくて、泣きたくなった。
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