スピカ
少しの沈黙の後、洋君は消えそうなほど弱い声で呟いた。
「……ごめん。俺、今、酷い事言った」
指の隙間から、歪んだ眉が見えた。あたしよりも、洋君の方が今にも泣きそうで。苦しくなる。
「でも、嘘は言ってない。雅ちゃんは軽くて、情がないような冷たい女に見える。他人から見ると。……そう聞いたし、実際に会って、俺もそう思った」
正直、きつい。痛い所をぐさりと突かれ、泣きたいのはこっちの方だ。
それでも、内で我慢して涙1つ見せずに話を聞くあたしは、洋君の言う通り、冷たいのかもしれない。素直に泣けない、冷たい人間。
暗い眼で地面を見つめ、だからこそ、と呟いて洋君は言葉を続けた。
「ちゃんと俺を見てほしかった。本気で、好きになってほしかった」
そう言い終えると、洋君は脇へ置いていた缶を掴んで、その中身をそっと地面に垂れ流した。
茶色い液体が砂に塗れ、どろどろの染みを作っていく。傾けていた缶を真っ逆さまにすると、茶色の雫が、ぽたぽたと飲み口から零れていった。
それから潔く立ち上がり、「なんてね」と付け足した。
「今のは冗談だよ。……付き合う気がない女とはもう会わない。俺には、軽い女は御免だ」
水滴を切った缶を、ごみ箱へ見事投げ入れて、そのまま手をポケットの中に突っ込んだ。カランと鳴った音が耳に残響する。
洋君は少しだけ振り向いて、儚げに微笑んだ。
「じゃあね。ばいばい」
くるりと向きを変え、愛想なくこの場を去っていってしまった。
ばいばいと、返事を返せなかった。ただ呆然と、洋君の背中を見送る事しか出来なくて。
ありがとうの一言さえも、言えなかった。
「……ごめん。俺、今、酷い事言った」
指の隙間から、歪んだ眉が見えた。あたしよりも、洋君の方が今にも泣きそうで。苦しくなる。
「でも、嘘は言ってない。雅ちゃんは軽くて、情がないような冷たい女に見える。他人から見ると。……そう聞いたし、実際に会って、俺もそう思った」
正直、きつい。痛い所をぐさりと突かれ、泣きたいのはこっちの方だ。
それでも、内で我慢して涙1つ見せずに話を聞くあたしは、洋君の言う通り、冷たいのかもしれない。素直に泣けない、冷たい人間。
暗い眼で地面を見つめ、だからこそ、と呟いて洋君は言葉を続けた。
「ちゃんと俺を見てほしかった。本気で、好きになってほしかった」
そう言い終えると、洋君は脇へ置いていた缶を掴んで、その中身をそっと地面に垂れ流した。
茶色い液体が砂に塗れ、どろどろの染みを作っていく。傾けていた缶を真っ逆さまにすると、茶色の雫が、ぽたぽたと飲み口から零れていった。
それから潔く立ち上がり、「なんてね」と付け足した。
「今のは冗談だよ。……付き合う気がない女とはもう会わない。俺には、軽い女は御免だ」
水滴を切った缶を、ごみ箱へ見事投げ入れて、そのまま手をポケットの中に突っ込んだ。カランと鳴った音が耳に残響する。
洋君は少しだけ振り向いて、儚げに微笑んだ。
「じゃあね。ばいばい」
くるりと向きを変え、愛想なくこの場を去っていってしまった。
ばいばいと、返事を返せなかった。ただ呆然と、洋君の背中を見送る事しか出来なくて。
ありがとうの一言さえも、言えなかった。