スピカ
「どうして、そういう風にしか受け取らないの?」

「楸さん相手に、いちいち真剣に口説き文句聞く訳ないでしょう。何怒ってるんですか」

逆ギレもいいところだ。楸さんは悪くないのに。苛立っているのは、あたしの方だ。
それでも、口から滑っていく言葉を制御出来ず、「冗談のくせに、」と吐き捨てるように笑った。

「冗談? ……何だよソレ。冗談か本気かくらい、ちゃんと見分けろよ、阿保!」

「あ、阿保? 何言ってんの? 意味、」

意味分かんない、そう言う前に、ようやく口が動くのを止めた。
楸さんの歪んだ顔が、目に入ったからだ。

「俺が本気で雅ちゃんを好きだとか、何で少しも思わないの? ちょっとは……考えろよ……」


頭が、真っ白になった。

通り抜けていく風と、目の前で揺らぐ明るい髪だけが動いているみたいで、周りが全て止まっているような感じがした。

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