スピカ
第10章 開かないドア
「もういいの?」
あたしの皿を覗き込んで、お母さんが呆然と尋ねた。
ほとんど手をつけていない。形の崩れていないコロッケが、寂しく皿の上に横たわっている。
「んー、もういい」
止まっていた箸を置くと、お母さんは具合でも悪いのかと聞いてきた。昨日から丸1日ほとんど何も口にしていないのだから、心配になるのも、ごもっともなのかもしれない。
具合が悪い訳じゃない。ただ、喉が詰まる感じがして仕方がないだけだ。
小さく首を振って、2人と目を合わせる事なく席を立った。
この、もやもやした気持ちは一体何なのだろう。
罪悪感? 不安?
長い長い迷路の中で、何かを探し続けている。
求めているんじゃない。
ただ、探している。
何を探しているのかも分からないのに、ずっと彷徨っている。
あの時、あたしは何か言わなければならなかった。何も言わない事が、1番楸さんを傷付けるだなんて、考えていなかった。
楸さんがあたしにとって何なのかなんて、答えはない。
まだ、出ない。
だけど、今。
こんなにも涙を堪えている。
傷付いたのはあたしじゃない。
あたしが、傷付けたんだ。
傷付けちゃいけない人だったのに。
謝らなきゃ。
リビングから「どこか行くの?」と言う声が聞こえ、気づくと、あたしは玄関の扉に手を掛けていた。