スピカ
 ヤバイ。頭の中がぐちゃぐちゃどころじゃなくなっている。汚染されていく感覚に近い。何かウイルスのようなものが、脳を喰い潰していく。最後には、砂嵐みたいな画面になってしまうのだろうか。
分かりそうで、あたしにはまだ、分からない。ただ、言葉の意味を整理して

「何で?」

冷静な振りをするしか出来なかった。それでも、お母さんの言葉は真実を突いていくだけで。

「だって、楸君の家、大工さんでしょ?
 お父様が引退したら、誰がお店を引き継ぐのよ」

「あ……」

「やっぱり、長男の楸君が継ぐ事になるでしょ。そうなったら、もう大学どころじゃないかもしれないわよ」

そんなの……、

「そんなの、楸さんが可哀相だよ」

「そんな事言ったって仕方ないでしょう。楸君は継がないって言ってたけど、ある程度は覚悟してたんじゃないの?」

お気の毒だけどね、とお母さんはわざとらしい溜め息を吐いた。あんなに可愛がっていたのに、「仕方ない」で済ましてしまうのだろうか。

それが、境界線というものなのだろうか。


これまであたしが他人に対して作り上げてきた、幾重もの線。それが今、あたしに差し出されている。

あたしにそれを飛び越える自信は、ない、と思う。胸を掻き毟りたくなるほど苦しくて、眼を開けているのも辛い。
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