スピカ
 星を見ただけで感傷的になるなんて、あたしらしくない。そう思っていても、急に明るくはなれなかった。元から明るい性格じゃないのだけれど。

すっかり冷えてしまった身体を玄関の内側へ入れ、カタンと戸を閉める。僅かに漏れてくるテレビの音が、木霊しそうなくらい廊下に響いてくる。物寂しい情景に耐える事が出来なくなり、冷たい手でリビングのドアを開けた。

テーブルに座ったお父さんは、ビール片手に、じっとテレビを見つめている。下らないお笑い番組にチャンネルを変えると、陽気そうに頬を緩ませた。

「おう、雅」

どうやら、もう出来上がってしまっていたらしく、お父さんは耳まで真っ赤になっている。お酒でこんなにもニコニコしているのを見るのも、随分久しぶりじゃないだろうか。

「酒臭い……」

匂いだけで酔いそうになりながら、あたしは静かに向かいの椅子に座った。
テーブルの上に並べられているのは、晩御飯と言うよりも、酒の肴と言った方が相応しい。何だか白米を食べるのが億劫になって、そのまま箸を取った。

「雅も飲むか?」

と、お父さんは何の迷いもなく、飲みかけのビール缶を差し出す。

「まだ未成年なんだけど」

父親が勧めるなよ、と思いながらもコップを手にすると、淡い黄金色の液体がなみなみと注がれていった。ゆらゆら揺れ、泡が蛍光灯に反射して一段と白く見える。ビールを目の前にして、さっきまで口寂しくも何ともなかったのに、急に喉が渇き始め、躊躇いなくそれをごくりと飲み込んだ。
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