スピカ
 少し飲み過ぎたかもしれない。頭は、はっきりしているけれど、目が熱くなってきた。元々お酒は強くない。

逆効果だと分かってはいながらも、一時の熱に耐えられなくなり、コップにあった残りのビールを一気に飲み干した。空になったコップをテーブルに戻すと、ちょうど目が合い、お父さんは寂しげな顔をした。

「うちの娘は3人共、本当に、しっかりした子に育ったよ。どこに出しても恥ずかしくないかと聞かれたら、頷けないかもしれない。けど、それでも、俺と母さんの娘にしては上出来な子に育ったと思ってる。困らされた事だって、ほとんどないんじゃないかな。特に、雅は。
 でも……頼られないのも、何だか物寂しいもんだなぁ」

ぼんやりとした視界に映るお父さんが、どこか小さく見えて、目を逸らさずにはいられなかった。新しい缶を冷蔵庫から出すフリをして、ふらふらと席を立つと、後ろから小さな笑いが漏れたのが聞こえてきた。

「いや、お父さんに相談してほしいとか、そういう意味じゃないぞ」

「……」

「ただ、雅は気の強い子だから、何でも1人で背負い込んでしまうと思う。弱みを見せたくない、って」

取り出したビールが、手にひんやりと冷たさを伝えていく。体中がぞくりとした。

「そうだから悪いって訳じゃないよ。それが雅の性格だし、お父さん達の責任でもあるから」

椅子に戻ると、お父さんはもうどこかを見ていて、ほんの少しだけほっとしたような気がした。
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