スピカ
 何軒かブティックが立ち並び、少し歩くと、すぐにマンションや民家が混ざり始めてきた。

擦れ違う人は皆、頭に雪を積もらせて、寒そうに肩を強張らせている。きっと、あたしもそのうちの1人なのだろう。

髪から雪がぽたりと頬へ落ち、溶けてしまった。頬を突き抜けるような寒さが感覚を麻痺させていて、それに驚く事もない。ただ静かに水滴を拭う。

コンタクトをつけていても霞む視界が、どこか虚しい。先は、ほとんど白と灰色の道が続くだけ。あたしの眼にはそう映っていた。

じわりと水がスニーカーの隙間から滲んでいて足元が気持ち悪い。知らない土地で、その上、何か不都合があるというだけで、やけに不安になってしまう。
ゴムのくせに、と小さく毒づくと、何だかあたしが悲しくなった。

喫茶店で休憩でもしようか、そう、周りを見渡してみる。すると、思いがけない文字を見つけ、一気に背中から汗が這い出して来た。

「……ここだ」

自分でそう言っておきながらも、目で何度も何度も名前をなぞる。文字がいきなり動く訳もなく、何回見ても、そこには“久住工務店”という文字が、入れ代わる事なく並んであった。
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