スピカ
 はーい、と言いながら、パソコンに向かっていた女性が1人振り返った。受付嬢と呼ぶには年が合わず、上だけ作業服のようなものを着ている。もう、中年のおばさんだ。他には若い女の人しかいなくて、すぐに、目の前にいる人が楸さんの母親だと分かった。

キョトンとするあたしを見ると、少し温かい目をして、微笑んだ。

「どうしました?」

嗜み程度にしか化粧しておらず、小綺麗にはしているものの、決して若くはない。
正直、驚いた。楸さんのお母さんなら、もっとけばけばしい、若作りな人を想像していたからだ。
けれども、疑う事なく、あたしは目の前の女性を楸さんの母親だと思った。

「お嬢ちゃん、どうしたの?」

2度目でようやく、口は動く事を許され、慌てて言葉を探した。

「あ、あの……、」

不審がって、奥にいた女の人までこっちに振り向いた。

「楸さんは、いますか?」

我ながら、不様だ。
確かめるような口調でそう尋ねると、2人は同時に顔を見合わせた。
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