スピカ
 ぱんぱんに詰め込まれたリュックに、両手いっぱいの手荷物。
きっと凄く凄く愛されているんだろうな。


「凄い荷物……」

ぼそりとあたしがそう零すと、森崎さんはどこか照れ臭そうに笑った。大きな垂れ目が緩む。

「そうなんだよ、いっぱいお土産持たされちゃって。ははは」

「……あ、持ちましょうか?」

手持ち無沙汰な両手をぎこちなく差し出してみる。

梢姉みたいに親切心とか、そんなものじゃない。手の塞がった人を手伝わないのは、さすがに気まずいと思ったから。ただの空気流しのためだ。

だけど予想外な事に、森崎さんはオーバーに首を横に振った。

「そんなっ! 女の子に荷物なんか持たせる訳にいかないよ!」

何の意地だよ。

結構今風な感じがするのに、森崎さんは意外と古風な人間なのかもしれない。

「いや、でも重そうだし」

「ううん、大丈夫! ありがとう。優しいね、梢さんも、雅ちゃんも」

そう言って森崎さんはボロ階段に足をかけていく。背中を追うように、梢姉は菩薩のような微笑みを返す。
あたしは、……嬉しいような、悲しいような。


だって、別に親切心なんかサラサラなかったのだから。
逆に、心の汚れを思い知らされる。


「あ、森崎さん」

透き通った声に、森崎さんは足を止めて振り返った。

「お昼、もう食べました?」

「いえ、まだですが」

森崎さんも、横にいるあたしもキョトンとしている。突然過ぎて、話の意図が分からなかったからだ。
梢姉はそんな事お構いなしに、にこりと微笑んだ。

「お素麺でよかったら、これから茹でるので食べていきません?」


気が利いて、だけどマイペースで。
梢姉は1番、お母さんよりお父さんの血を濃く引き継いでいると思う。
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