スピカ
 風の音が窓の外から伝わってくる。
風鈴なんて田舎にしかねぇよ、と思いながらも、毎年この音を聞いている気がする。
いや、案外ここも田舎か。車の音なしに風鈴の音を聞けるのは、ここが田舎だって証拠だ。

塀を飛び越えて吹き込む風は、爽やかなんて良いもんじゃない。どちらかと言うと、湿気を含んでいて心地悪い。
髪が靡く、なんて、あたしには似合わないせいか、風も掠おうとしない。傷んだ髪はどうやらお嫌いみたいで。

「出来たよ」

いつも聞くお母さんのものとは違う優しい声が、あたしの背中に向けられる。返事代わりにパチンと携帯を閉じ、重い腰を上げた。

テーブルの真ん中には大きな桶が。その中には、大量の素麺がつやつやと光沢を放っている。
森崎さんは幸せそうに、いただきます、と箸を合わせた。

「いっぱい食べていってね。うちには育ち盛りもいないから」

お母さんは微笑まし気にそれを見ている。自分が作った訳でもないくせに。

「あっ、ありがとうございます。
いやいや、でもそんな! 雅ちゃんだって育ち盛りじゃないですか」

「それがね、雅は少食だから全然食べないのよ。お菓子だったらいっぱい食べるくせにね」

ふふふ、とおばさん笑いを零すお母さん。
若い男と話せて幸せそうだ。話の種にされているあたしは、そんな事全く興味がないのだけれど。

「雅ちゃん。食べれるうちにしっかり食べておかないとダメだよ」

「ほーい」

つるつると白糸を口の中に吸い込む。
冷やされた麺がひんやりと頬を内側から刺激する。間違いなく、将来、知覚過敏になるだろうな、とぼんやり思った。
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