スピカ
 玄関の開く音と同時に、「あつー!」と蛍姉の低い声が聞こえてきた。
“ただいま”よりも先に、そんなテンションが下がるような事言うなよ、と心で呟きながら、もぐもぐと顎を動かす。

「お邪魔しまーす」

不思議に思ったのはあたしだけじゃないらしく、テーブルにいた皆の視線が流れた。
てっちゃんなら、“お邪魔します”なんて言うほど畏まった仲じゃないし、かと言って、蛍姉がてっちゃん以外の男を家に連れて来た事なんて、今まで1度もない。
特に興味がある訳でもなく、気にならない訳でもなく。


「あつーい! って、また素麺?」

蛍姉の目が見開く。
前髪を上げているせいで、眉の動きまではっきり分かってしまう。何だかうんざり、という様子。

「また、って何よ。蛍も食べる?」

「あー、まぁいいや。食べる食べる」

そう、と言いながら梢姉が席を立った。
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