スピカ
「雅、食べた後に寝転ぶと牛になるよ?」

視界にチラチラとお父さんが映る。気を遣っているつもりか知らないけど、そのチラリズムが余計神経に触る訳で。

「モー」

「モーじゃなくて! 夏休みだからって、年頃の娘が昼間からゴロゴロしてたらダメだぞっ」

ああ、欝陶しい。何で乙女口調なんだよ。放っておいてくれ。

モー、ともう一鳴きしてから横向きに寝転がる。後ろで親父の小言が聞こえるけど、知らんぷり。反論するのも面倒臭い。

キッチンで森崎さんがお母さんに捕まっているのが見える。
どうやらテレビサスペンスの、お母さんの推理を聞かされているらしい。森崎さんもいい迷惑だ。それなら、後ろで何か言っているお父さんに説明すればいいのに。

その奥で、楸さんが梢姉を口説いていた。

「3姉妹だなんて、憧れるなぁ。しかも美人だし」

「そうですか? 久住さんなら、3人くらいポコっと生まれますよ」

「ポコって、そんな簡単に言わないで下さいよ」

「大丈夫、きっと腹違いですから」

「ちょっと! 俺がたくさん孕ませてるみたいじゃないですか!」

おいおい、何の話だ!
梢姉、恐ろしすぎるよ!

「でも、皆がお嫁に行っちゃうなんて、寂しいじゃないですか」

梢姉がふと悲しそうな顔をした。
あんな顔、結婚式ぶりかもしれない。遠くで眺めているあたしまで、悲しくなるじゃないか。
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