スピカ
〜♪〜

びくんと心臓が跳びはねた。聞き慣れた着信音が、大きな音で背後から流れてきたからだ。

皆の視線が一瞬にしてこっちに集まる。携帯電話が鳴っただけなのに、あたしが何か悪い事でもしたみたいじゃないか。
視線が離れていく中、重い手で携帯を掴んだ。

「……はい」

『雅? 寝てた?』

少し興奮気味の声が耳に届く。いつもはあたしと変わらないくらい低いくせに、今日はやけに声が高い。

「ううん、全然」

『そっか、よかった。……あのね、』

ふと横目に、楸さんがこっちを見ているのが見えた。不思議そうな、小さい子みたいな表情。あたしが電話してちゃ、可笑しいのだろうか。
ぷいと視線を逸らしてやった。

『……って、聞いてる?』

「え? あ、ああ、ごめんごめん!
 ……何?」

あたしとした事が。疫病神なんかに気を取られるなんて、地震でも起こるんじゃないだろうか。
電話口で、亞未は小さく「もう!」と零した。何だか、悠成君の気持ちが分かったような気がする。

『だからさ、悠成の地元の友達でヨウって子がいるんだけど』

「……YO?」

『違うわ! ラッパーじゃないんだから』

「は? んじゃ、何?」

『上田洋!』

上田洋? 聞き覚えなんてないぞ?

「誰ソレ」

『だから悠成の友達っつってんじゃん!』

あ、ああ……
そういえば、なんて思いながら、ごろんと仰向けになる。視界の隅で、お父さんと蛍姉が競馬の予想を言い合っているのが見えた。
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