スピカ
 急に暗くなったかと思えば、面倒臭い奴が1人。テレビの、芝生色の光が遮られてしまった。

「誰誰? 彼氏?」

楸さんは、相変わらずのニヤニヤ顔。
あたし、この前彼氏と別れたって言わなかったっけ? 彼氏ネタは当分要らないんですけど。

「違います。友達」

「うっそだぁ! あの冷めっぷりは彼氏でしょ」

悪かったな、冷めてて。
彼氏にも友達にも、態度を変えた事なんかないっつーの。

「あ、もしかして、元彼……?」

わざとか? それとも厭味か?
楸さんは真剣な、いや、気まずそうな顔をしているけれど、どうも信じがたい。

「違うって。しつこい」

テレビに向けていた視線をスライドさせると、楸さんはキュッと口を結んだ。
黒い瞳がモスグリーンに染まる。目鼻立ちのはっきりした顔が、ぞっとするほど不気味。
暫く沈黙が続いた後、楸さんは無表情のまま小さく口を開けた。

「……みーちゃん」

「みーちゃんって言うなぁ!」

と、臑に1発。
途端に楸さんはその場にしゃがみ込んだ。

「……ってぇ! べっ、弁慶?
 ちょっ、マジ痛いんだけどぉっ……!」

目尻に涙が溜まっている。
“弁慶の泣き所”だなんて、よく言ったものだ。ざまあみろ、って感じ。

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