スピカ
「お父さんもお母さんも、風邪引かないよう気をつけてね」

「はいはい。あんた達こそね」

梢姉はにっこり笑っていた目をあたし達に当てた。

「蛍達もまた遊びにおいで」

うん、と頷くと、ちょうど蛍姉と声が重なった。それを見て、梢姉は可笑しそうに笑う。

「雅、遊んでばっかじゃダメだよ」

「分かってる」

そう即答すると、梢姉は満足気に笑った。

「じゃあ、おやすみなさい」

梢姉に続いて、直人さんが頭を下げる。手を振っているのはお母さんだけで、多分、あとは皆、同じ顔をしていたと思う。

2人の影が、門灯から遠ざかっていく。
それを見ながら、言葉が続かない。

梢姉がいないと寂しいんだ。
皆も、あたしも。

永遠の別れとかそんな大層なものじゃなくても、いつでも会える訳じゃない。次、梢姉が帰って来るのはお正月。

やっぱり、そんなの寂しい。


お嫁に行っちゃうって、こういう事だ。

生涯を一緒に過ごしたい人が出来るんだって。家族よりも大好きな人が見つかるだなんて、あたしには一生起こり得ないかもしれない。

蛍姉も、そのうちてっちゃんと結婚して、家を出ていくかもしれない。楸さんや森崎さんだって、あと2、3年もすればここを出ていく。


あたしは、ここにいたい。


でも、独りだなんて嫌だ。
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