スピカ
「あれ? 雅ちゃん、ちょっと痩せた?」

「通用しませんよ、そんな手」

「ちぇっ。素っ気ないなぁ、もう。美人なのにぃ」

ヘラヘラしていて余計に腹が立つ。元からそういう人だから仕方がないのかもしれないけど、妙に癪に触る。

「久住さん、話逸らそうとしたって無駄ですよ。ってか、早く帰りたい」

イライラと足を鳴らす。なのに何だろう、この余裕っぷりは。憎たらしい。

「敬語なんて使っちゃってさ。久住さんだなんて……。いつもは楸さん(ハート)って呼んでくれるのに」

「呼ばねぇよ、ってかあたしそこまでキモくないし」

……おまけに軽い。最低な男の代表みたいな奴で。

「夏休みだからってこんなに露出しちゃダメだよ。おじさん食べちゃうぞ!」

「うるさい。放っといてよ、おじさん」

「お、おじ…! 俺、3つしか変わんないのに!」

「自分で言ったんじゃん」

楸さんと喋っていたら馬鹿になりそうだ。いや、あたしも大して頭は良くないんだけど。

それでも、楸さんには危機感ってものがないらしい。まだニヤニヤしている。不適というより、不埒な笑みを浮かべている。

「入る? お茶くらい出すけど」

「要らない。そういうの勘弁して下さい」

「ひっ、ひどっ!」

今のはなかなか効いたらしい。楸さんはショックそうな顔をした。これを見て、トドメを刺すかのようにあたしはわざとらしく溜め息を零してやった。

「大体、楸さんの部屋なんか入ったら、」

〜♪〜

部屋の中からさっきと同じ着信音が流れてくる。多分、電話だ。
楸さんは急に真面目な顔になり、「ごめんね」と小さく片手を挙げた。

「あ、ちょっと」

「じゃっ!」

と言うと、楸さんは再び部屋の中に戻っていってしまった。

まぁ、いつも大体こんな感じ。
家賃を払う気なんてサラサラないんだ、あの男は。
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