スピカ
 尖った音と、地を擦る音が混ざる。
まるでそれぞれの性格を音で表したかのよう。皮肉なものだ。


「……何でついてくるんだよ」

振り向きもせず小さく声を零す。
足を止めて一緒に行きましょ、なんて言うほどあたしは友好的じゃないし、楸さんにそこまで好意を抱いていない。

「別についていってないもん。道が同じっていうだけだもーん」

ほら、イライラする。
あたしは少年っぽい人は好きだけど、ガキは嫌いなの。キッという音でも発しそうなくらい鋭く睨んでやった。

「じゃあ、どこ行く訳?」

視線と同時に楸さんの足が止まる。口から煙草を離すと、灰が音もなく下に落ちていった。

「煙草買いに、ちょっとそこまで」

「は? 吸ってるじゃん、現在進行形で」

「最後の1本なんですぅ」

あっそ、と再び足を進める。
煙草の残余なんて知ったこっちゃない。

待ってよ、と後ろから声がした。無視すればいいものを、イライラしながらも振り返るあたしは律儀な女だ。
何、と聞き捨てる前に楸さんは少しだけ目を緩めた。

「途中まで一緒に行こうよ」


答えに、戸惑った。

楸さんは苦手。でも、だからと言って無視出来るほどあたしは冷たい人間には成りきれなくて。
急いでるから、とか何とか言って誤魔化すという手も、あるにはあるのだけれど、口が上手く回らない。
口の内側で言葉を転がしていると、楸さんが無邪気に笑った。

「やっと追いついた」

その無垢な笑顔が、嫌。
本当は汚れてるくせに。

そうやって何も言い返せなくするんだ。

「……バッカみたい」

浮かび上がる言葉が、それしかなかった。
なのに、楸さんはいつものようににっこり笑う。それが、悔しくて堪らない。

電柱の蛍光灯が、暗い夜道を照らす。
夜は真っ暗なのに白色を地面に向けるなんて、一体誰が考えたんだ。
自分が白黒映画のワンシーンになったみたいじゃない。だけど、台詞が出てこないあたしは、女優失格だ。
戸惑う足を再起動させるのも、どこかぎこちなくなってしまう。

横に並んだ影が少し遅れたテンポで歩き始める。それが、返ってあたしの歩幅にはちょうど良い。

なんて、馬鹿げてる。


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