スピカ
 カチン、と安っぽい音。
小さな灯火を、くわえた煙草の先に器用に当てる。細まった目が、赤く光って綺麗。テールランプみたいに人工的じゃなくて、自然の深い赤。

目を伏せたまま、口から紫煙を吐き出す。その行為がどこかもどかしい。動いちゃいけないのかな、って思ってしまうじゃないか。

ふ、と小さく笑うと、体内に残っていた煙が僅かに外に漏れ出た。

「男でしょ」

「……関係ないじゃん」

どうして楸さんにそんな事言わなくちゃいけないんだ。関係ないのに。そもそも、何で分かったのだろう。如何にも、鈍感そうな顔をしているくせに。

「……」

「ま、そうだね。健康でよろしい事だ」

さっき夜遊びは不健康だって言ったのは誰だよ、全く。どうして、こんな気まずい空気にならなくちゃならないんだ。
……って、あたしがこんな空気を作ってるのか。

「じゃあ、おやすみなさい」

1歩、距離を空ける。それだけで、間に線を感じてしまう。
楸さんはにっこり笑って、薄っぺらい手をひらひらと揺らした。

「いってらっしゃい。お早うお帰り」

見送られるなんて、何だか嫌になる。だって、どんな視線を向けられてるか分からないでしょ。
冷たい眼光が背筋を突き刺してるかもしれない。そんな悍ましい光景、出来れば見たくない。

足取りをほんの少しだけ速め、振り返らずにその場を去るようにして、逃げた。
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