スピカ
「こちら、ヤン高西のプリンス、上田洋君でーす」

「ヤン高って言うな、ヤン高って。ヤンキーの高校みたいじゃん」

あたし達が通ってるのは、ヤン高東。だから、ヤン高西は隣の高校という事になる。まぁ、隣とは言っても、実際は真逆の場所にあるのだけれど。

ふ、と吐息が漏れる。
急に笑い出したものだから、あまりジロジロ見ないようにしていた視線も、洋君の方に向いてしまう訳で。笑う洋君と、目が合ってしまった。
髪とは真逆の、薄い瞳。優しい眼。

「あはは、キツそー。本当に毒舌なんだ」

……驚いた。まさか、初対面でそんな事を言われるとは。

だけど、楸さんから聞くとムッとしてしまうような言葉も、嫌な感じなんて全くしない。不思議な人だった。

「今のは笑う所じゃないだろ」

と、悠成君が宥めても、優しく目を緩ませている。気まずくて視線を逸らすと、遠くのネオンが歪んだ気がした。


「やべ。雅ちゃん、面白いかも」

洋君はそう呟くと、にこりと笑顔を作り直した。……あたしは別に面白くないんですけど。

だけど、逃げ出す訳にもいくまい。

それに、思っていたよりも良い人だな、なんて思ったのは事実で。あたしって、案外緩い人間なんだと実感してしまった。

憂鬱ながらも、この優しい人となら、1日くらい我慢出来そうだ、と心の中で誰かが囁いた。
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