スピカ
 水音が響く。耳に、瞳の奥に、脳に。
勢い良く打ち付けた水飛沫が、ステンレスに模様を付けていく。
何だか苦しそうだ、と思いながらも、グラスで流れを遮った。


「高校生が朝帰りなんかしていいの?」

いつもより聞き取りにくい声が、話し掛けてくる。食べるか話すか、どちらかにすればいいのに。

「別に、普通でしょ」

楸さんの眼が、あたしを捉えているのが分かる。けれども敢えて無視し、その横を通り過ぎた。
どうして朝からこんなハイテンションな奴を相手しなくちゃならないんだ。
楸さんがうちにいるなんて、かなり予想外だった。てか、ストーカーかよ。

「うわっ。雅ちゃん、酒臭いっ!」

ギンと睨む。楸さんは鼻を摘んで、どんだけ飲んだんだよ、と呟いた。

「うるさいなぁ。人の事言えないだろ、あんたは」

眉を動かすと、楸さんは小さい子のように口を結んだ。

飲んだ後に歌ったせいか、喉が焼けたらしい。出て来る声がいつもの数倍は枯れている。ハスキーボイスみたいな、そんな良いものじゃなくて。

イライラしながら、強引に水を口へ流し込む。混ぜて口に含んだ薬が、寄り道せずに喉を通っていった。
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